「正解がない支援」に、どう向き合う?
支援の現場では、日々さまざまな選択を迫られます。
利用者の行動に対して、どこまで手を差し伸べるのか、どんな言葉をかけるのか——。
でも、「これが正解だ」と言い切れる支援は、実はほとんどありません。
私は、尊敬していた先輩が退職したあと、職員からたくさんの相談を受ける立場になりました。
「この場面、どう対応すればいいですか?」「こうなったときは、何が正解ですか?」
真剣に考えているからこそ、答えを求められることが増えました。
けれど私は、その問いに明確な答えを出せずにいました。
支援の現場は、正解を即答できるほど単純ではない。
状況は一瞬で変わるし、相手の気持ちや背景は見えづらい。
だからこそ、私自身も迷いながら支援を続けていたのです。
支援者が「答え」を欲しがるのは当然。でも…
「このとき、どうすればよかったんですか?」
現場でよく聞かれる質問のひとつです。
新人や若手の支援者だけでなく、経験を積んだ人でも迷うことはあります。
「こうすれば必ずうまくいく」という正解が欲しくなるのは自然なこと。
でも、私はその場で明確な対応例を出すことはあまりしてきませんでした。
なぜなら、「正解」は現場で起きた事実をもとに、みんなで探すものだと思っているからです。
私たち支援者ができるのは、「何が起きたのか」をていねいに共有し合い、
そこから見えてくる課題や仮説をチームで検討していくこと。
上手な支援よりも、事実を共有できるチーム。
それが、支援現場に本当に必要な力だと思っています。
「正解がない」とわかった時、本当のスタート地点に立てた
かつての私は、「なぜ答えを言ってくれないんだ」と上司に苛立つこともありました。
しかし自分が立場を変えてみて、ようやくその意味がわかってきたのです。
支援の現場では、利用者の状態や環境によって状況が刻々と変化します。
同じ対応が、同じようにうまくいくとは限らない。
「これさえやればOK」という解答集は存在しない。
だからこそ、目の前の事実から仮説を立てて、
チームで情報を照らし合わせながら支援の質を高めていく。
「正解がない」ことを受け入れられたとき、私はやっと支援のスタートラインに立てた気がしました。
支援に「答え」を求める気持ちがすれ違いを生むこともある
ある時、非常勤の職員さんに「どうしたら収まるのか、正解を教えてください」と言われたことがあります。
真剣だからこそ、正解を求める気持ちはとてもよくわかります。
でも、私はその時、「正解がない」ことを前提に、見立てや仮説を立てることしかできませんでした。
その曖昧な答えに、相手は納得できなかったかもしれません。
「正解が欲しい」のに「はっきり言ってもらえない」となると、信頼関係にひびが入ることもある。
でもこれは、お互いの「支援に対する期待の違い」なんです。
私はその時、説明の仕方を変える必要があったと今なら思えます。
曖昧さを恐れず、でも曖昧なままにしない。そんな伝え方が必要でした。
支援は「チームの答え」を探し続けること
正直、「これで合ってるのか?」と自信を持てない支援は今でもあります。
でも、それでいいと思えるようになったのは、「正解をひとりで探さなくなった」から。
利用者本人の様子や変化を、チームで共有すること。
気づきや仮説を持ち寄って、少しずつ見えてくることがある。
だから私は今、「支援者としての役割は、“チームで正解を探し続けること”だ」と考えています。
誰かひとりが上手くやる支援より、みんなで少しずつ支援の質を高める方が、きっと利用者にとってプラスになる。
それでも限界を感じたら、“環境”を見直していい
ここまでお読みいただいて、
「それでも今の環境では難しい」と感じている方もいるかもしれません。
支援に正解はなくても、“やりやすさ”や“向き不向き”はあります。
誰もが今いる職場で続けなきゃいけない理由なんて、実はどこにもないのです。
私は一度、「辞めてもいい」と思えたことで気持ちが軽くなり、もう少し続けてみようと思えるようになりました。
それがきっかけで15年。今でも支援現場にいます。
しんどさが続くなら、「環境を変える」という選択肢も、大事な支援のひとつです。
