1. 「利用者ってお客様?」新人のころに抱いた違和感
“利用者さんはお客様のように”と言われて、モヤッとした経験はありませんか?
介護や福祉の仕事を始めたばかりのころ、私は「利用者さんには丁寧に接して」「お客様のように対応してね」とよく言われていました。
たしかに失礼があってはいけないし、丁寧さやマナーは大切です。
でも、どこかで「これってお客様扱いしすぎじゃないか?」という違和感もありました。
相手はサービスを買いに来たお客さんではなく、暮らしの中で関わり合っていく“生活者”です。
毎日顔を合わせて、支援しあって、ときには失敗も共有して――
そんな関係に、「お客様」という言葉がしっくりこない瞬間があったのを覚えています。
実際の現場で感じた“関係性のむずかしさ”については、こちらで詳しく書いています。
👉 支援者と利用者との“距離感”に悩んだときの向き合い方
2. 発達障害のある方から学んだ、“普通”のかかわり方
「子ども扱いしないで。普通に話してよ」
支援員になって間もない頃、ある発達障害のある利用者からそう言われたことがあります。
さらに「敬語も使わないで」「なんでそんな言い方するの?」と、毎回のように怒られていました。
当時の私は、丁寧に接する=敬語ややさしい言い回し、という意識が強く、それが“支援者としての正解”だと思っていました。
だから、その方の反応は正直「わがままなのかな?」と感じてしまっていました。
でもあるとき、ふと思ったんです。
「この方は、どういう経験を積んできたんだろう?」と。
聞いてみると、その方は支援学校の出身で、家庭や学校以外のコミュニティで他者と対等に話す経験がとても少なかったことがわかりました。
もしかしたら、“どう関わったらいいのか”を、その方自身も模索していたのかもしれません。
その気づきから、私も少しずつ接し方を変えていきました。
相手の言葉づかいやテンポに合わせるようにしたり、「こう言ったら怒られるかな」ではなく、「こう言ったら伝わるかも」と考えるようになりました。
気づけば、怒られることは少しずつ減っていきました。
そして、相手の方から笑顔が出たり、冗談を返してくれるようになったとき、「ああ、これが“普通に話す”ってことか」と思えたのです。
3. 支援者と利用者の“距離感”は一つじゃない
支援の仕事をしていると、「どこまで近づいていいのか」「どこまで踏み込んでいいのか」と、距離感に悩むことがあります。
“お客様”のように接すれば、丁寧にはなるけれど、心の距離ができてしまうこともある。
かといって、馴れ馴れしくしすぎると、不快にさせてしまったり、信頼を損ねることもあります。
結局のところ、支援者と利用者の距離感は、マニュアル通りにはいかないのだと思います。
その人との関係性の中で、時間をかけて少しずつ築かれていくもの。
そして、それぞれの人との関係の中で、「その人との正解」が生まれていく。
同じ言葉でも伝わり方が違い、同じ態度でも受け取り方が変わる。
だからこそ、相手と向き合いながら関係を育てていく姿勢が大切だと感じています。
4. 福祉はサービス業?
「福祉はサービス業だから、丁寧に」「感謝されて当たり前」
そう言われることもありますし、そう教えられる場面もあります。
たしかに“福祉サービス”という言葉があるように、制度上は「サービスの提供者と受け手」という関係に見えるかもしれません。
でも、現場にいると実感します。
この仕事は、いわゆるサービス業とはちょっと違う。
コンビニやレストランのように「一方的にサービスを提供する側」ではなく、
むしろ、共に暮らしをつくっていく“共同作業”に近いのです。
相手に喜んでもらうことや、満足してもらうことも大切。
でも、感謝されることを目的にするのではなく、
その人の暮らしを一緒に支えることが、何よりの価値だと私は思っています。
5. 利用者がいなければ、福祉職の仕事はない
当たり前のことですが、利用者がいなければ、私たち福祉職の仕事は成り立ちません。
でもその意味を、本当の意味で実感したのは、現場で支援を重ねるようになってからでした。
支援者は、利用者を“助ける”立場ではありません。
一方的に何かを「してあげる」のではなく、暮らしを一緒につくる“伴走者”としてそばにいる存在だと思うのです。
支援が必要な状況にあるからといって、利用者が受け身であるとは限りません。
実際には、利用者から教えられることも多く、気づかされることばかりです。
「支援者がいるから利用者が成り立つ」
…のではなく、
「利用者がいるから、支援者としての自分が育っていく」
そう感じる場面が、何度もありました。
支援とは、“関係性”の中で成り立つもの。
利用者とともに日々を積み重ねる中で、自分自身もまた育てられているのだと思います。
6. 介護職と障害福祉職、“お客様感覚”のちがい
同じ福祉の仕事でも、「お客様」という感覚には違いがあります。
たとえば、高齢者介護の現場では「接遇」が重視される場面が多く、
「失礼のない対応をすること」「安心感を与える距離感」が大切にされがちです。
一方、障害福祉の現場では「自立支援」や「本人主体」が重視され、
一人ひとりとの関係性の中で、対等な関わり方や“やってもらう”ではない支援が求められます。
つまり、どちらが正しいという話ではなく、
支援の目的と文化によって「お客様感覚」の位置づけが変わるということ。
だからこそ、違う分野から転職してきた方や、異動したばかりの職員が戸惑うのも自然です。
大切なのは、「お客様のように扱うこと」が支援の目的ではないということ。
利用者が“暮らしの主体”でいられるように、支援者としての距離感や関わり方を、現場ごとに見直していくことが求められているのだと思います。
“お客様”じゃない。でも、雑にもできない
「利用者はお客様なのか?」という問いに、私なりの答えは――
「お客様ではないけれど、関係性を丁寧に育てる相手」です。
変に“お客様扱い”しすぎると、距離ができてしまう。
かといって、フランクすぎたり雑な関わりでは、信頼関係は育ちません。
結局のところ、答えは一つじゃないのだと思います。
その人との関係性の中で、お互いが心地よい距離を探していく。
それが支援であり、福祉の現場のあり方なのだと、私は感じています。
“感謝される支援”を目指すのではなく、
“一緒に暮らしをつくる伴走者”としてのあり方を考えること。
それが、「利用者=お客様?」という問いに向き合う、ひとつの答えになるのかもしれません。
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